天変地異、人が去る、野は勢いを増す。
豪雪をいかにしのいだか、二、三才のくるみの若木が幼き葉を従えて立つ。
春の宵、垂れ下がる雄花の影が月光に映える、誰かが宇宙人のようだと言った。
ここ越後の山里は昭和初期、百を超える漉き家が、
各々の屋号の紋所を背負ってしのぎを削った。
寿岳文章先生「紙漉き旅日記」憧憬の地。
現在は無住。そこかしこの跡地には、くるみや桐の木が枝葉を拡げ、主となっている。
三十五年前、この地に工房を設けた。
くるみの実の殻は格好の染料の材料、始めは闇雲に拾い集めていたが、
十五年ほど前から下草の処理が大事を分かり
年間の予定を立てている。今、優に十年使う分は蓄えている。
紙にくるみで染色することは以前にあったかどうかは知らない。
ただ、私ほどの枚数を染めた人はいないと思う。
この頃、くるみについて思うことがある。
くるみは「野」であるということだ。くるみの色は「野」の色、「野」の力。
今回の展覧会はさまざまな紙に移り住んだ、くるみの「野」です。
坂本直昭 Nao’s Paper Show くるみの「野」
2024年9月21日(土)〜10月14日(月)
11時〜18時(火曜休館)
坂本 直昭(さかもと・なおあき)
1948年 茨城県生まれ。早稲田大学卒業
1975年 版画集の制作など、紙の仕事を始める
1984年 東京 千石に「紙舗 直」を開く
1989年 新潟 小国に工房をつくる
2002年 道南の原生林の中に工房をつくる
2007年 父祖の地、高知に工房をつくる
1948 Born in Ibaraki . Graduated from Waseda University
1975 Start making paper work such as making prints collections
1984 Open “Paper-Nao” at Tokyo Sengoku
1989 Making a workshop in Niigata oguni
2002 Making a workshop in the virgin forest of South Hokkaido
2007 Making a workshop in the place of Kochi